暗幕のゲルニカ
原田ハマ 著
20世紀最高の画家のひとり、ピカソの歴史的傑作として名高い「ゲルニカ」。
そもそもこの「ゲルニカ」というタイトルが、スペインのバスク地方の街の名前であることすら知らなかった。
その異形の人物や動物の姿、モノクロの圧倒的な存在感は実感していたのだが、その作品の背景は全く無知であった。
1937年、ナチス・ドイツがゲルニカに対して行った人類初の無差別空爆。
その暴挙に憤怒の炎を燃え上がらせ、ピカソが描き切った、縦137センチ、横306センチの巨大な絵。
幾千万の銃よりも、一本の絵筆の方が遥かに強いと証明された記念的作品だ。
その後「ゲルニカ」はヨーロッパ各地を展覧し巡り、その最中、戦況は益々悪化する。
「スペインに真の民主主義が戻るまで、アメリカに留めてほしい」
ピカソは「ゲルニカ」を戦火から守るべく、海を渡り、アメリカに疎開させる。
その疎開先がニューヨークの近代芸術の総本山、MOMA(モーマ) 美術館である。
その後、42年間、MOMAで展示され続け、1981年、民主主義が取り戻されたスペインに返還されることとなる。
そして時は流れ、2001年、9月11日、アメリカのワールド・トレード・センターが空爆される無差別テロが起こる。
怒りに震えるアメリカは、テロリスト撲滅の旗印の下、強固な武力行使に向かう。
この負の連鎖を止めるべく、MOMAのキュレーター(企画スタッフ)の主人公が、今こそ我々にはピカソの「ゲルニカ」が必要であると、スペインからもう一度「ゲルニカ」を呼びもどそうとするが、そんな彼女に幾多の試練が訪れる。
1930年代のパリと現代のニューヨークが時を超えて交錯する「ゲルニカ」を巡るスリリングな物語り。
絵画の鑑賞の仕方は観るだけには留まらない。
その作品の背景、バックグラウンドを知ることによって、その作品は新たな魅力を増す。
画家がどういう想いで描いたのか、その描かれた当時の時代背景や画家の置かれた境遇などを紐解いていくと、まるでその当時にタイムスリップしたかのような想いに駆られる。
ピカソしかり、ゴッホ、モネ、若冲、光琳、永徳、等伯、これだけ時代を経て、今尚我々の心に影響を及ぼす絵画、その物語をもっと深く知り、頭まですっぽりと浸ってしまいたい。
すると実物を目の前にする時、どこか覚えのある風が吹き、心臓がドクドクと鼓動するのを感じる。
その一瞬がとても好きなのだ。
★ハッとしてグッとポイント★
芸術は飾りではない。
敵に立ち向かうための武器なのだ。
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