罪の声

塩田武 著 / 


1984年に起こった「グリコ・森永事件」を覚えているだろうか。


お菓子に青酸カリを混入させ、各地のスーパーにばら撒き、

「どくいり きけん たべたら 死ぬで」

と自らを「かい人21面相」と名乗り、企業やマスコミ、警察に脅迫文を送り続けた事件。


捜査に難航する警察をあざ笑うかのような挑戦状を送り、神出鬼没で大胆な犯行手口が、世間の注目を浴び、劇場型犯罪の先駆けなった。


あの「キツネ目の男」の似顔絵は今でも記憶に残っている。

そしてもうひとつ記憶にあるのは、犯人の要求する脅迫金の受け渡しの指示に、子供の声が録音され、テープ放送されていたこと。


そして時は流れ、2000年2月、昭和史における最大級の未解決事件は、完全時効を迎える。


物語の主人公は、父親の葬儀を終え、遺品を整理していたところ、黒い手帳と古い録音テープを発見する。

手帳には、「グリコ」「森永」の文字が、録音テープからは、幼かった無邪気な自分の笑い声が聞こえ、そして


「京都へむかって 1号線を2きろ バスてい ベンチの こしかけの うら…」


それは「グリコ・森永事件」当時、何度もテレビで流されていた犯人の指示だった。

まぎれもなく幼い頃の自分の声だった…


このプロローグの導入部分で、すでにぐっと物語の世界に引きずり込まれる。

なんとも興味を惹かれる展開に一気に読速が増す。


身に覚えのない場面に遭遇し、事の真相を知るべく、当時の事件を過去の出来事を探っていく。

自分の父親は事件と関係があるのか、どうして自分の声が犯罪に使われてしまったのか…

そして、犯人の指示に使われた子供の声は、自分を含めて3人いた。

ならば、あとふたりの人物が今もどこかで生きている。


自分と同じ境遇の人間が、なんの悪意もなく、理不尽な形で突然犯罪に巻き込まれ、身に覚えのない恐怖に怯えながら、どうして生きていかなければならなかったのか…


物語は限りなく当時の「グリコ・森永事件」の史実通り展開する。

企業名は別の社名に変更されているが、当時の警察の捜査、犯人との緊迫するやりとり、事件当時ではけして報道されたかった新事実も浮き彫りになる。


そして、現実では今尚、事件は未解決のままで終えるのだが、本編では著者の徹底的な取材で得た情報を元に犯人の姿、その動機を提示している。


フィクションとリアルが実に巧みに説得力のある形で溶け合い、クライムサスペンスとしては非常に高いものとなっている。


また、犯人探しもさることながら、その影で犯罪に利用された子供たちのその後の姿に焦点を当て、詳細に描き切っている点が特筆すべきである。


子供を犯罪に巻き込めば、その分、社会から希望が奪われる。

「グリコ・森永事件」の罪とは、ある一家の子供の人生を粉々にしたことでもある。


★ハッとしてグッとポイント★

偶然手に取った本は、著者のサイン入り本であった。

そこに著者の名前と「子どもは未来」と記されていた。

読んだら忘れないための備忘録

歳を重ねるにつて、読んだ端からすぐ忘れては、本屋でお気に入りの本を手に取り、帰ってみたら、自宅の本棚に全く同じものがある光景に辟易してしまう。 そんな負の連鎖を極力避けるべく、またせっかくの学びをより確かなものにするための備忘録です。

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