イチローのバットがなくなる日

長谷川晶一 著 / 


イチローのバットがなくなる日。

それはアオダモの木がなくなる日。


日本のプロ野球に入団した1年目、1992年にイチローは、アオダモのバットを作った。

以来、現在に至るまでずっと同じ形状のバットを使い続けている。


野球のバットに使用される木材には、アオダモをはじめ、メイプル、ホワイトアッシュとい品種がある。


「アオダモは非常に強度で、木に粘りがあるので、スウィングの時にしなりを生むバットになります。ボールに食らいつくようなしなりが欲しい選手には当然、アオダモが適しています」


バット職人がそう語るように、イチローを始め、松井秀喜や落合博満など数々の一流選手がアオダモのバットを使用している。


しかし、アオダモの木は年々減少の一途を辿り、植樹を繰り返しても、バット材として成長するまでには、およそ70年もの月日を要するのだ。


「自分が野球を続けることによって、一体何本ものアオダモが死んでいくのだろう。その木に応えるためには、自分がいい結果を出すこと。そしてファンに喜んでもらうこと。それが木に対する感謝の気持ちだと思う」


イチローが野球道具を大切に扱うということは良く知られたこと。

彼がファーボールなどで塁に出ていく時、必ずバットをそっと優しく地面に置く仕草がアメリカで話題となったことを思い出す。

そこにはイチローの「大切に扱う」以上の気持がきっとこもっているのだと思う。


「アメリカの野球に追いつけ、そして追い越せ」

のスローガンのもと、日本の野球は、70年の時を経て、2006年、WBCという世界の舞台で、優勝を勝ち取るまでに成長した。

日本の黎明期に生まれたアオダモが、今のプロ野球を支えている。


そのアオダモが消えてなくなる日がもうすぐ来てしまうのか。


「カッコ良く言えば、プロ野球発展のため、という部分もあります。これまでずっと野球に恩義を受けてますからね。だからアオダモのバットが欲しい、という選手がいれば、企業としても最善の努力をする」


「アオダモを欲しがっている人がいる限りは、ずっと集め続けます。特にイチローさんに使っていただけるのであれば、何があっても僕は絶対にアオダモを集め続けます」


人々の胸に永遠に刻まれるであろうイチロー選手の大偉業が、アオダモという一本の木のよって達成されたということは、紛れもない事実。


イチローという不世出の選手を支えた一本の木。

その木を守るために、アオダモ保護のために人生を捧げた名もなき男たちの奮闘があった。


「木を植えたって、木を保護したって、自分の代では何の見返りもない。しかし、その未来を将来を信じることが出来るかどうか、そこは、この時代を生きる者のひとつの哲学だろうね。森林保護とはそういうもんなんです」


★ハッとしてグッとポイント★

2016年、開幕前のトレーニングで、イチローが手にしていたバットは、木目が細かく美しい白いアオダモではなく、黒いホワイトアッシュのバットであった。

読んだら忘れないための備忘録

歳を重ねるにつて、読んだ端からすぐ忘れては、本屋でお気に入りの本を手に取り、帰ってみたら、自宅の本棚に全く同じものがある光景に辟易してしまう。 そんな負の連鎖を極力避けるべく、またせっかくの学びをより確かなものにするための備忘録です。

0コメント

  • 1000 / 1000