消滅世界
村田沙那香 著 /
とある日本。
ここでは、家族や恋人という感情での「繫がり」という概念が希薄で、人と人との関係は合理性のみで判断される。
結婚という形も様々で、経済的に独立していれば、一人でいるのが最良で、異性と暮らしていても、そこに愛情表現はなく、互いに相互扶助の関係でのみ生活する。
さらにセックスという行為もただ単に煩わしいものと判断され、人工授精による出産が日常的になる。
「家族」や「セックス」、あらゆる関係性が去勢された灰色の世界。
人々はそれを「楽園」と呼び、当たり前のように享受し、暮らしている。
主人公の女性は、この世界に違和感を感じ、葛藤を繰り返しながらも、次第に飲み込まれていく自分にもがき苦しむ。
果たしてここは本当に「楽園」なのだろうか…
我々が求める人と人との絆とはなんなのだろうか…
著者独特の異様な世界観が圧倒的で、五感を刺激する実験的な小説。
とても好き嫌いが分かれる作品だけど、私は大変興味深く読めました。
特に衝撃だったのが、千葉県で行われている国の実験的政策。
「エデンシステム」の一部を記します。
「毎年一回、12月24日、コンピュータによって選ばれた住民が一斉に人工授精を受けます。
受精する人間はコンピューターで管理され、健康面や過去に産んだ回数などを考慮して選ばれる。
人口は増え過ぎず減りもしないよう計算され、ちょうどいい人数の子供が生まれるよう完璧にコントロールされます。
子供たちは15歳になるまで衣食住を保証され、その世界では全ての大人が全ての子供の「お母さん」となります。
全ての子供を大人全部が可愛がり、愛情を注ぎ続けます。
均一で安定した愛情を受けることで精神的に安定し、頭脳、肉体ともに優秀であることが保証されます。
「家族」が欠落していることによる不公平なリスクを子供が負うことはありません…」
まあ、なんともグロテスクなシステムでしょう。
しかし、現在の日本を見渡してみれば、結婚率の低下や、シングルマザーの増加、草食男子と呼ばれる恋愛希薄群、バーチャル世界にこもる非コミニケーション群、性別のボーダレス化など、確実に足元から何かが消滅してるのではないだろうか。
★ハッとしてグッとポイント★
お母さん、わたし、怖いの。
どこまでも正常が追いかけてくるの。
ちゃんと異常でいたいのに、どこまでも追ってきて、わたしはどの世界でも正常なわたしになってしまうの…
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