「押し紙」という新聞のタブー

黒藪哲哉 著 / 


新聞社が新聞の発行部数を大幅に水増ししている事実を聞いたことのある人は、ほとんどいないのではないだろうか。


私も実のところ知らなかった。


日本全国にある新聞販売店に搬入される新聞は、全て配達されているわけではない。

その内、3割から4割くらいの新聞が、誰の目にも触れないまま、販売店の倉庫で保管され、破棄され続けている。


つまり、新聞社が新聞の発行部数を大幅に水増しして、販売店に納品している。

販売店は決して配達されることのない余分な新聞を強制的にノルマとして押し付けられる。

これを「押し紙」という。


社会の不正を暴き、ジャーナリズムを標榜する大企業が、現在に至るまでひた隠しにしている、信じ難い巨大な偽装工作。


新聞にとって発行部数は絶対的なものだ。

発行部数が上がれば、紙面広告の媒体価値が高まり、広告収入が増える。

また企業としての発言力も増す。

しかし、ここ近年インターネットの普及により、新聞の発行部数は減少の一途を辿る。

その減少した部数を穴埋めするかのように、年々「押し紙」の量は増え続けている。


販売店は、もちろん「押し紙」も含めた仕入れ代金を新聞社に支払うこととなる。

これでは、実販売以上の代金を支払わされているので、赤字が続き廃業に追い込まれるのではないかという疑問が湧く。


ここに新聞ビジネスの巧妙なカラクリがある。

新聞社は「押し紙」を販売店に押し付ける代わりに、補助金を支給し、負担を軽減させている。

さらに、販売店に折り込みチラシを水増しさせ、それによって得た水増し収入で、損害を相殺させているのだ。


販売店に搬入される新聞は、全て販売店が注文したこととなっている。

このような事務処理をするのは、「押し紙」が独占禁止法で禁止されているからだ。

書類上では押し付けた新聞は存在していないこととなる。

こうしておかないと公取委の指導を受けてしまうからだ。


さらに販売店が「押し紙」の負担に不服を言おうものなら、補助金を打ち切り強制的に廃業に導く徹底ぶりだ。


しかし、近年になり隠しきれない巨大化しすぎた「押し紙」問題が表面化し、「押し紙」廃止の議論が活発になってきている。

だが、公取委はけして積極的には動かない。

なぜなら、世論の誘導に長けた巨大なメディアを味方に付け、政治や国会を極力思うままに動かしたいからだ。

世論の誘導と「押し紙」存続という蜜月の関係が成立してしまっているのだ。


言論の自由を謳う新聞社が「押し紙」という言論を完膚なきまでに抹殺し、部数至上主義の名の下に、広告主を欺き、販売店を弾圧し、政治家と癒着し、莫大な利益を貪る。


ここにジャーナリズムの灯は消滅した。

後に残ったのは、新聞乱売と人間疎外の索漠とした荒野だ。

それが新聞離れに発射をかけ、そこには新聞社を崩壊へと導く危機しかない。


★ハッとしてグッとポイント★

日本全国の販売店に搬入される朝刊の月単位の部数は、約4,500万部。

その内の約20%の900万部が押し紙だとすると、月額1 部あたりの卸原価を1,500円とすると、月に135億円の押し紙による収益が見込まれる。

年にするとなんと1,620億円だ! 

読んだら忘れないための備忘録

歳を重ねるにつて、読んだ端からすぐ忘れては、本屋でお気に入りの本を手に取り、帰ってみたら、自宅の本棚に全く同じものがある光景に辟易してしまう。 そんな負の連鎖を極力避けるべく、またせっかくの学びをより確かなものにするための備忘録です。

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