誰がアパレルを殺すのか
杉原淳一/染原睦美 著 /
国内のアパレル業界が未曾有の不振にあえいでいる。
大手百貨店の閉店、ブランドの消滅、止まらぬデフレ価格、余剰在庫の山…
もはや市場規模は3分の2に落ち込んでいるのに、市場に出回る商品の数は倍増しているという事実。
なぜ、このような惨状になってしまったのか。
それは、「必ず無駄な在庫を生む仕組み」になっているからだ。
需要に関係なく、単価を下げるためだけに、大量生産し、ばらまく。
極めて非合理であるが、麻薬のように一度手を染めると辞められない。
目先の売り上げが安易に作れるからだ。
かつてアパレル業界には、高度経済成長期から1980年代までに経験した、強烈な成功体験がある。
デザイナーズブランドやDCブランドがもてはやされ、作れば作るほど、どんなに高値でも飛ぶように売れに売れた。
しかし、バブル崩壊による景気低迷とデフレの深刻化に追従できず、いつまでも過去の成功にすがりつくことになる。
その結果、アパレル企業は、商社やOEMメーカーが提案する完成品を選ぶだけという実態に変貌していた。
自社でモノ作りをしていないのに、どうやってお客さんに「自社ブランド」を売ることができるのか。
それすらも分からなくなってしまった。
さらに各ショップを支える販売員を、ブランドのイメージに合わなくなったと、年齢だけを考慮し、熟練の販売員を「使い捨て」にする風潮も、大きく現場にダメージを与えることとなる。
販売員のスキルや意欲は、そのブランドの価値に直結する、そんな当たり前のことすらないがしろにしてきた。
そしてついに、アマゾンやゾゾタウンなどの実店舗を持たないアパレルの販売形態が、息の根を止めにくる。
膨大な顧客、販売データを駆使し、余計なコストをカットし、適正な価格で商品を提供する。
また、メルカリを代表とする、中古販売の需要が高まり、消費者は「新品」以外の服を求める方向にシフトしてきている。
さらに新たに購入するということではなく、レンタルで着まわしていくという業態も登場してきた。
IT業界発の言わば「よそ者」たちが、アパレル業界に新たなイノベーションをもたらしているのだ。
消費者はもう洋服を買うためにわざわざ売り場まで足を運びたいとは思っていない。
買うだけではなく、中古品を売買したり、レンタルすることに興味を持つ。
この流れに付いてこれなければ、既存のアパレル業界の未来はない。
どんなブランドの服を着ているのかではなく、どんな風に着こなすのか。
かつてなく厳しい目の前の逆境は、次の成長の発射台と言い換えることができるはずだ。
絶望するにはまだ早いが、流れを変えるなら今しかない。
ここでは詳細は割愛するが、布生地の開発から販売まで一貫して品質をコントロールし、永く多くの顧客に愛されている「ミナペルホネン」や、その確かな技術力で日本のジーンズを世界に売り出し、実績を残す「桃太郎ジーンズ」など、新たな価値観を生み出している企業は確かに存在するのだから。
★ハッとしてグッとポイント★
正面から消費者と向き合えば、そこには必ずヒントがある。
「本気で消費者と向きあう覚悟はあるのか」経営者に問われているのは、その覚悟だ。
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