新説・佐山サトル タイガーマスクと呼ばれた男
田崎 健太 著 /
身軽なステップでコーナーポストに立ち、人差し指を天高く指す。
縦横無尽に宙を舞う華麗なる空中殺法。
次から次に繰り出される技のオンパレード。
それはまるでテレビアニメの世界から、そのまま飛び出したかのようなスーパーヒーローだった。
タイガーマスク。
テレビ画面の前で、拳を握りしめながら、一喜一憂し、目を爛々と輝かせながら見ていた。
その覆面の下の男、佐山サトルの格闘技人生。
格闘家、佐山サトルは、華々しいスター選手になることを望んではいなかった。
類まれな身体能力を買われ、自分の意思とは無関係に覆面を被らされた。
自分が望む格闘スタイルは、真剣勝負。
筋書きのある「プロレス」よりも「異種格闘技」などの、真の強さを追い求めていた。
自分の望むスタイルと乖離するスパーヒーロとのギャップに悩み苦しみながら、会社の思惑、スポンサーの意向などに振り回されるのに耐え切れず、僅か2年でヒーローの座を降りる。
その後、理想の格闘スタイルを求め「修斗」(しゅうと)という格闘技団体を立ち上げる。
全てが手探りの暗中模索の道のりだった。
自らルールを作り、有力な選手を育成し、興行を行う。
しかし、周りから求められるのは、あの時の様なファンを沸かすファイトスタイルで、タックルや投げ技、関節技中心の「修斗」というスタイルは、世間に受け入れられなかった。
一度決めたら真っしぐらな性格、多くを語らない、気分屋で練習生を罵倒する、そんな彼の行動が周りの誤解も相まって、関係者が次から次へと離れていく。
また、会社の経営を人任せにしていたため、多額の経営赤字を自分一人に背負わされる羽目になる。
そして、佐山サトルは、自ら創造した「修斗」と決別する。
総合格闘技「PRIDE」や「RIZIN」の源流を創り出したのは、紛れもなく佐山サトルだ。
自分の信念に真っ直ぐで、嘘偽りなく、何度も挫折を味わいながら、孤高の虎の闘いは続く。
世界に先駆けて、ルールある格闘技として「総合格闘技」を始めた男。
彼の本質は、皆が知るタイガーマスク以外にある。
彼は今なお、理想の格闘技を求めている。
★ハッとしてグッとポイント★
タイガーマスクではない「人間・佐山サトル」の姿。
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