信長の原理
垣根涼介 著 /
何故おれは、裏切られ続けて死に行くのか。
羽柴秀吉、明智光秀、丹羽長秀、柴田勝家、滝川一益、名だたる家臣に囲まれながら、戦国という動乱の時代を織田家を守り抜くためだけに駆け抜ける信長。
幼き頃から、目上の者を敬わず、身内に対しての忖度もなく、「うつけもの」と揶揄されながらも、己の志を全うし、戦の才を遺憾なく発揮し、織田家の勢力を拡大していく。
しかし、信長にはずっと不思議に思い、苛立つことがあった。
どんなに兵団を鍛え上げても、必ず力を落とす者が現れる。
なぜだ…
そんな中、地面に這いつくばる蟻の行列を凝視すると、あることに気付く。
この蟻の集団は全員が全員懸命に働いてるのではない。
必死に働くのはその二割に過ぎず、残りの六割は何となく追従しているだけ、そして残りの二割は、群れから外れていく…
その割合は、どんなに規模が大きかろうが、小さかろうが、必ずや二対六対二の割合に落ち着く。
人間も蟻と同じだとすれば、必ず俺を裏切る者が現れる…
やがて案の定、恐れていたこと起こった。
家臣で働きが鈍る者、織田家を裏切る者までが続出し始める。
神仏などを信じるはずもないが、確かに「この世を支配する何事かの原理は存在する」。
戦を重ねながら、その原理に取り憑かれる信長は、自分に背く気配を感じると、身内だろうが、家老だろうが、容赦なく討伐していく。
時にあまりにも逸脱な行動に出る信長に、次第に不信感を抱える家臣たち。
次は我が身なのではないかと、疑心暗鬼に取り憑かれ、各々が保身に奔走する。
天下統一を目の前にし、改めて信長は決心する。
今最も良い働きを見せる、羽柴秀吉、明智光秀、丹羽長秀、柴田勝家、滝川一益。
この原理によれば、最後にはこの五人からもひとり、必ず俺を裏切る者が出るはずだ…
織田信長の飽くなき渇望。
家臣たちの終わりなき焦燥。
その組織構造の原理が「本能寺の変」を呼ぶ。
★ハッとしてグッとポイント★
信長の行動原理を、今のビジネス界にある組織構造原理「パレートの法則」に照らし合せ、新たな信長像を描き出した、エンターテイメント歴史小説である。
問答無用に面白きことかな。
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