蠕動で渉れ、汚泥の川を
西村賢太 著 /
1984年。
携帯電話もインターネットも無い時代。
北町寛多、17歳。
中卒、日雇い、人品、性格に難有り。
港湾人足や製本所で日銭を稼ぎ、その日に得た銭はその日のうちに使い切る。
ポケットに忍ばせたハイライトを片手に、家賃滞納での退去命令に悩みながらも、紫煙を揺らしながら、好物の小説に没頭する。
無気力、無目的な流浪の日々。
しかし、北町貫多は今日も生きる。
そんな青春も存在する。
著者 西村賢太の私小説。
独特の古めかしい文体と子気味良い会話で、彼の青春時代の一編を垣間見る。
太宰治や三島由紀夫などの文学に傾倒している所以か、プライドや自尊心は甚だ高く、その反面、仕事は全く続かず、家賃を滞納しては、夜逃げ同然で飛び出し、寝床を転々とする。
毎度、反省はするが、まだ、17歳、何度でもやり直しは出来ると根っからのお調子者、のらりくらりと障害をかわしながらのその日暮らし。
そんな、寛多、ようやく下町の洋食屋に住み込みで働き始める。
案外の居心地の良さに、このまま料理人の道を目指す思いも芽生えるのだが、やがて持ち前の無軌道な性格から、懲りずにまた自らその希望を潰す行為に走り出すー
全くもって、何度も嫌なこと煩わしいことから逃げ続け、同じ失敗を繰り返す寛多。
気弱な性格の癖に、人一倍プライドが高く、ローンウルフ気取りの男。
自分を大きく見せようと墓穴を掘り、気付けば寝床もなく、煙草一本すら吸えない状況に。
そんな寛多が、なぜか憎めない。
いや、どうしてもほっとけない。
馬鹿なんだけど、やっぱり微笑んでしまう。
何が良いのか悪いのやら、負の17歳の肖像。
「17歳の失敗は、人生の失敗じゃないのだ!」
寛多はそう教えてくれてるのかもしれない。
★ハッとしてグッとポイント★
数年経てば笑い話に出来るような、ほんのひとつの小さな失敗で、前に進むことを辞めてしまう、そんな人達に読んでもらいたい。
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