ワイルド・ソウル
垣根涼介 著 /
かつて男たちは不毛の大地、アマゾンの奥地で生きていた。
第二次世界大戦後、1950年代から60年代にかけて、日本政府はブラジルへの移住政策を行ってきた。
そこは農作物の楽園と宣伝されてたが、行ってみた先は、一面に塩の吹き出した荒野。
地面はひび割れ、サボテンしか育たず、井戸を掘っても水は出ない、そんな土地に強制移住させられた四万人を超える日本人がいた。
衣食住にも乏しかった戦後の日本から、生きる希望と僅かばかりの金銭を握りしめ、電気や水道などなく、まともな住居すら与えられず、飢餓と伝染病で、ことごとく仲間たちが惨死していく。
後戻りすることも出来ず、両親の無残な屍に激昂しながら少年たちは生き延びていった。
驚くべき無策、無能ぶり。
というより国家ぐるみの詐欺に等しい。
我々は戦後の口減らしのために国に捨てられた棄民なのだ。
それから40年後、生き延びた男たちは、過去の歴史にけりをつけるべく、同胞たちの無念を抱き、日本政府に対し復讐を敢行する。
彼らの前代未聞の復讐劇と要求は、政府に受け入れられるのか。
過去の移民たちと同様、またしても国や政府の面子のために国民を捨て駒にするのか。
知らないということはそれ自体で罪なのだ。
移民者たちの地獄の日々もつゆ知らず、お気軽にこの国で生きている国民に思い切り冷や水を浴びさせる。
国家なんぞ、所詮こんなもんだと思い知らせてやる。
そして日本政府の化けの皮を剥ぐ。
熱帯の密林からエネルギーを浴びて成長した男たちは、愛する者の死の記憶を抱え復讐を誓う。
国家が起こした大罪を過去と現代に交差させ、圧倒的なスケールと興奮と感動を描き込んだクライムサスペンスの金字塔。
国とは、国民とは何か、思い知らされます。
【備忘録追記】
ブラジル移民者の中には、大農園を経営し、事業を成功させている人もいる。
当時の外務省役人の言葉。
下記、本文中から抜粋
「どんな世界にも、成功した人、失敗した人がいるでしょう。
失敗した人の側面ばかりを取り上げて、それで国の責任うんぬんと言われても、どうかと思いますね」
はらわたが煮えくり返った。
その腑抜けたコメント、怒りに全身が震えた。
こいつらは何も考えていない。
相手の立場に立って、物事を考えたことなど一度もない。
恐るべき想像力のなさ、無責任さ、無能さ。
こういう人間たちが、今も日本を動かしているのかと思うと、絶望感しかない。
現代の政治にも同じことが言える状況が多々見られる。
日本という国は何も過去から学んでいないのか。
0コメント